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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)43号 判決 1987年1月28日

原告

旭化成工業株式会社

被告

特許庁長官 黒田明雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が、昭和56年審判第22545号事件について、昭和60年1月17日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「難燃性ポリアミド組成物」とする発明(以下「本願発明」という。)につき昭和52年8月4日特許出願をしたところ、昭和56年8月31日拒絶査定を受けたので、同年11月11日審判を請求した。特許庁は、これを同年審判第22545号事件として審理し、昭和58年9月17日出願公告したが、特許異議の申立があり、昭和60年1月17日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年2月20日原告に送達された。

2  本願発明の特許請求の範囲

ポリアミドとメラミンシアヌレートとからなり、該ポリアミドがポリマー成分としてナイロン66に相当する結合単位95~65重量%、ナイロン6に相当する結合単位5~35重量%を含むナイロン66/6共重合体であり、メラミンシアヌレート含量が2~30重量%であることを特徴とする難燃性ポリアミド組成物。

3  審決の理由の要点

1 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

2 これに対し、本願の出願の日前の出願であつて、本願の出願後に出願公開された特願昭51-106530号(特開昭53-31759号公報)の願書に最初に添付した明細書(以下、「引用例」といい、これに記載された発明を「引用発明」という。)にはポリアミド樹脂とシアヌル酸メラミンとからなるポリアミド樹脂組成物が記載され、ポリアミド樹脂としてナイロン6/6・6が具体例として記載され、シアヌル酸メラミンはシアヌル酸メラミンとの等モル反応物であつて、これをポリアミド樹脂組成物中に1~20重量%、好ましくは3~15重量%含有するように添加する旨が記載されている。

3 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、ナイロン6/66がナイロン66/6共重合体であることは明らかであり、また、シアヌル酸メラミンは、シアヌル酸とメラミンとの等モル反応物であるので本願発明におけるメラミンとシアヌル酸との反応生成物であるメラミンシアヌレートと同一化合物であることは明らかであるから、両者は、ナイロン66/6共重合体とメラミンシアヌレートとからなるポリアミド組成物である点で一致し、メラミンシアヌレートの配合割合にも格別の差異はないが、ただ、両者はナイロン66/6共重合体のポリマー成分について、前者(本願発明)がナイロン66に相当する結合単位95~65重量%、ナイロン6に相当する結合単位5~35重量%であるとしているのに対し、後者(引用発明)がポリマー成分の重量割合について特に規定していない点で、一応相違する。

4  右相違点について検討するに、ナイロン66/6共重合体のナイロン66及びナイロン6のそれぞれに相当する結合単位が上記重量割合の範囲にある共重合体が特別のものではなく、本願出願前普通に知られているものであるから、引用例にナイロン6/6・6との記載があれば、当然本願発明におけるナイロン66/6共重合体と同一組成のものを意味していると解するのが相当である。従つて右の点について両者間に実質的に差異があるとすることはできない。

そうすると、本願発明は引用発明と同一である。

5  以上のとおりであり、しかも本願発明と引用発明とはその発明者が同一であるともまたその出願人が同一であるとも認められないので、本願発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点1ないし3を認め、4及び5の認定判断を争う。

審決は、本願発明と引用発明との相違点として、前者がナイロン66に相当する結合単位95~65重量%、ナイロン6に相当する結合単位5~35重量%であるのに対し、後者が右成分の重量割合について特に規定していない点で相違とするとして両発明の相違点を認めながら、これについて実質的差異がないとした判断は、以下主張のとおり誤つている。審決は、このような誤つた判断をした結果本願発明と引用発明とは同一であるとの誤つた結論に至つたものであるから、違法として取消されるべきである。

1 本願発明について

(1)  本願発明のポリアミドは、特許請求の範囲から明らかなとおり、ポリマー成分として、ナイロン66に相当する結合単位95~65重量%、ナイロン6に相当する結合単位5~35重量%を含むナイロン66/6共重合体であることを構成要件とするものである。そして、本願発明はこのようなナイロン66/6共重合体を用い、これとメラミンシアヌレート含有量が2~30重量%からなるポリアミド樹脂組成物に関するものである。

(2)  ポリアミド樹脂の中でもナイロン66やナイロン6は耐熱性及び機械的性質に優れていることはよく知られているところである。しかし、このようなポリアミド樹脂も難燃性の点では末だ改良の余地があり、これまでこれに添加する難燃剤について種々の研究、提案がされてきた。本願発明は、このようにナイロン66の難燃化を目的として実験を重ねた結果メラミンシアヌレートの採用に到達したものである。

ところが、ナイロン66とメラミンシアヌレートからなる組成物は、高いレベルの難燃性を有し、かつ成形物のブリードアウト(成形品表面にメラミンが浮き出ること)がないという優れた効果がある反面、成形時に発泡を生じ、成品の機械的性質を低下させ、外観を損なう欠点があつた。そこで、本願発明者らは、ナイロン66の優れた物性を損なうことなく、高い難燃性を有するポリアミド成形物を得るために検討を進めた結果、ナイロン66にそれより少ない前記範囲の特定量のナイロン6を共重合させたナイロン66/6共重合体とメラミンシアヌレートとの特定割合の組合せ、すなわちナイロン66に相当する結合単位95~65重量%、ナイロン6に相当する結合単位5~35重量%を含むナイロン66/6共重合体で、メラミンシアヌレート含量が2~30重量%のポリアミド組成物としなければならないという結論に達し、本願発明を完成させたものである。

2 引用発明について

(1)  一方、引用発明もまた外観良好で優れた難燃性を有するポリアミド樹脂組成物として、ポリアミドとシアヌル酸メラミン(メラミンシアヌレート)とからなるポリアミド樹脂組成物に関するものである。

(2)  しかしながら、引用例には本願発明におけるナイロン66及びナイロン6の組成割合に対応する記載は全くない。

なるほど、引用例にはポリアミド樹脂について、2頁左上欄6行~右上欄4行に亘つて、数多くの種類が列記されており、その中に「ナイロン6/6・6」(ナイロン66/6共重合体)の記載も見られる。しかし、右記載はポリアミド樹脂の種類をただ単に例示したにとどまるのであり、引用例にはナイロン66/6共重合体の各成分の割合に関する記載は皆無であり、その実施例を見てもナイロン6とシアヌル酸メラミン(メラミンシアヌレート)を組合せた場合の組成物だけであつてナイロン66/6共重合体の例はない。ましてや、引用例にはナイロン66にメラミンシアヌレートを含有させると成型時に発泡を生じ、成品の機械的性質を低下させ外観を損う欠点を解消するためにナイロン66/6共重合体を用いることについては一言半句の記載もないのである。

以上のとおりであつて、引用例には多くの種類のポリアミド樹脂が列記され、その中にはナイロン66/6も記載されているが、これはあくまでもポリアミド樹脂の単なる例示にとどまるものであり、本願発明のような重量割合のナイロン66/6共重合体の組成については記載されていないのである。

(3)  審決は、ナイロン66及びナイロン6のそれぞれに相当する結合単位が本願発明の重量割合の範囲にある共重合体は特別のものではなく、本願出願前普通に知られているものであると判断し、被告も同旨の主張をする。

なるほど、ナイロン66/6共重合体において、両成分の割合は理論的にはほぼ0~100重量%の範囲において製造可能であり、現実にもその殆んどの範囲において各目的に応じて使用されている。しかし、一般にポリアミドに添加物を加えた場合に、その組成物の特性、例えば耐熱性、機械的性質、成型性等は、ポリアミド樹脂の組成及び添加物の種類、量によつて予期しえない変化をするものであり、その結果組成物がどのような挙動、物性を示すかを予め推定できるものではない。ナイロン66/6共重合体とメラミンシアヌレートからなる組成物についてもこのことは全く同様であり、ナイロン66とナイロン6とは本願発明の所定割合の範囲内ではじめて成形時の発泡を防止できるのである。

従つて、引用発明にあつては、特定成分割合のナイロン66/6共重合体とすることによつて成形時の発泡を防止するという課題解決について全く認識されていなかつたのであり、このような課題及びその解決方法について記載のない引用例には本願発明におけるナイロン66とナイロン6との重量割合の範囲を限定した構成が記載されていないことは明らかである。

しかるに審決は、右重量割合の範囲は特別なものではないとして、引用例にナイロン6/6・6(ナイロン66/6)との記載があれば、本願発明と同一組成のものを意味するとして、両者間に実質的差異がないとしたのは誤つている。

3 以上のとおりであつて、引用例にはナイロン66/6共重合体のナイロン66及びナイロン6のそれぞれに相当する結合単位の重量割合に関する記載はないから、本願発明と引用発明とはこの点で相違することは明らかである。

第3請求の原因に対する被告の認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認める。同4の1の(1)、2の(1)及び(3)のうち、ナイロン66/6共重合体において、両成分の割合は理論的にはほぼ0~100重量%の範囲内において製造可能であり、現実にもその殆んどの範囲において各目的に応じて使用されていることは認めるが、その余の主張は争う。

2  原告の主張する審決取消事由は以下のとおり失当であり、審決には違法の点はない。

1 引用例にはナイロン6/6・6すなわちナイロン66/6共重合体の各ポリマー成分の重量割合について特に明文による記載はないが、原告も認めるとおり各成分の割合はほぼ0~100重量%の範囲において製造可能であり、現実にもその殆んどの範囲で目的に応じて使用されている。そして、次に述べるとおり本願発明の構成要件であるナイロン66及びナイロン6の各結合単位95~65重量%及び5~35重量%の範囲に含まれるナイロン66/6共重合体は、本願発明と同様のポリアミド樹脂の難燃化処方において本願出願前周知かつ慣用のものであつた。

すなわち、いずれもポリアミド樹脂の難燃化処方に関するものとして、(1)乙第1号証(特開昭51-54653号公報)の2頁左下欄10~11行目には、ポリアミドとしてナイロン66/6共重合体が例示され、実施例1にはそのモル比が70/30(重量比に換算すると、82.4/17.6)のナイロン66/6共重合体が示されており、(2)乙第2号証(特開昭51-39750号公報)の3頁左上欄11行目には、ポリアミドとしてナイロン6/66共重合体が例示され実施例4にはその重量比が20/80のナイロン6/66共重合体が示されており、(3)乙第3号証(特開昭51-54654号公報)の2頁左上欄15行目には、ポリアミドとしてナイロン6/66共重合体が例示され、実施例2にはその重量比が85/15のナイロン66/6共重合体が示されており、(4)乙第4号証(特開昭51-54655号公報)の3頁右下欄5~6行目には、ポリアミドとしてナイロン6/66共重合体が例示され、実施例3にはその重量比が15/85のナイロン6/66共重合体が示されている。なお、乙第5号証(高分子機械材料ナイロン樹脂ガイドブツク、昭和39年7月5日共立出版株式会社発行)には、ナイロン6/66の比が10/90のナイロン6/66共重合体のものが市販されている旨記載されている。

以上のとおり、ナイロン66に相当する結合単位95~65重量%、ナイロン6に相当する結合単位5~35重量%を含むナイロン66/6共重合体は、周知・慣用のものであり、引用例記載のナイロン66/6共重合体からこれら組成のものが除かれているとする理由もないから、引用例記載のナイロン66/6共重合体には、本願発明の組成のものが実質的に明示されているということができる。

2 原告は、引用例には成形時の発泡の防止という課題について記載がないことを根拠として引用例には本願発明の右の構成は記載されていない旨主張する。

しかし、本願明細書によれば成形時に気泡が混入するのは、ナイロン6に相当する結合単位が5重量%未満という極めて限定された範囲内だけであり(明細書4頁19行~5頁2行)、本願発明の組成範囲以外においてはすべて発泡するものではない。しかも、本願発明の前記課題(成形時の発泡防止、成品の機械的性質の低下防止)は、乙第1号証の実施例6の表2にも示されているとおり格別のものではない。

すなわち、同表にはナイロン66及びナイロン6の成分割合について、本願発明の規定する範囲に近いナイロン66/6のモル比95/5から60/4(重量%に換算すると97.4/2.6から75/25)の範囲において、これに難燃剤としてメラミンを配合した場合に、機械的特性と難燃性にすぐれているという本願発明の意図した前記課題について記載されている。

従つて、引用例に成形時の発泡に関する記載がないとしても、このことから引用例には本願発明の前記組成範囲のものが開示されていないとすることはできない。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実及び審決理由の要点1ないし3記載の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 本願発明におけるポリアミドは、ポリマー成分としてナイロン66に相当する結合単位が95~65重量%、ナイロン6に相当する結合単位が5~35重量%を含むナイロン66/6共重合体であることを構成要件とするものであり、本願発明はこのようなナイロン66/6共重合体を用い、これとメラミンシアヌレート含有量が2~30重量%からなるポリアミド樹脂組成物に関するものであることは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第2号証(本願明細書・図面)によると、特許請求の範囲においてナイロン66及びナイロン6の組成割合を右のように規定したことに関して、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「ナイロン6に相当する結合単位が5%未満の場合には、組成物の成形時に気泡が混入し、成形品外観を著しく損なうばかりでなく、機械的性質の低下が大きく実用性を持たない。また該共重合体がナイロン6に相当する結合単位を35%を越えて含む場合には、ナイロン66/6共重合体自体の機械的性質が劣り、またメラミンシアヌレートによる難燃効果が不充分となり好ましくない。」(4頁19行~5頁6行)、「本発明の効果は、優れた耐熱生、機械的性質をほとんど損うことなく、高度の難燃性を衛生上の問題を生ずる心配なく付与することができ、しかも、成形加工性においても、成形時のモールドデボジツトや、成形品への気泡混入や、成形品のブリードアウトがない点にある。」(4頁8行~13行)との記載が認められ、これら記載をはじめ明細書の他の記載を総合すると、本願発明におけるポリアミドの組成に関する前記構成要件は、原告が主張するとおり、ナイロン66とメラミンシアヌレートから成る組成物は高い難燃性を有し、また成形物のブリードアウトがないという優れた効果がある反面、成形時に発泡を生じ成品の機械的性質を低下させ外観を損なうなどの欠点があつたことに鑑み、これらの欠点を除去しつつ、なお高い難燃性を保持するために設定された要件であることが認められる。

2 一方、引用発明もまた外観良好で優れた難燃性を有するポリアミド樹脂組成物として、ポリアミドとシアヌル酸メラミン(メラミンシアヌレート)とからなるポリアミド樹脂組成物に関するものであり、引用例には右シアヌル酸メラミン(メラミンシアヌレート)をポリアミド樹脂組成物中に1~20重量%(好ましくは3~15重量%)含有するように添加する旨が記載されていることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第3号証(引用例)によれば、引用例には引用発明において用いることのできるポリアミド樹脂の具体例が多数示されており、その中には「ナイロン6/6・6」の記載が認められ、右ナイロン6/6・6がナイロン66/6共重合体を意味するものであることは前叙のとおり当事者間に争いがない。しかし引用例を検討しても、右ナイロン66/6共重合体におけるナイロン66とナイロン6との組成割合に関する明文の記載は見当らない。

3  そこで、本願発明のナイロン66及びナイロン6の組成割合に相当する組成割合が引用例に開示されているか否かについて検討する。

(1)  ナイロン66/6共重合体において、両成分の割合は理論的にはほぼ0~100重量%の範囲において製造可能であり、現実にもその殆んどの範囲において各目的に応じて使用されていることは原告の自認するところである。

そして、成立に争いのない乙第1号証ないし第4号証によると、これら乙号証は、いずれもポリアミド樹脂の難燃化処理に関する発明に係り、かつ本願発明の出願前に出願公開された公開特許公報であるが、乙第1号証(特開昭51-54653号、昭和49年11月7日出願、同51年5月13日公開)の実施例1にはモル比70/30(重量比82.4/17.6)のナイロン66/6共重合体に難燃剤としてメラミンを配合したものが、乙第2号証(特開昭51-39750号、昭和49年10月2日出願、同51年4月2日公開)の実施例4には重量比80/20のナイロン66/6共重合体に難燃剤としてシアヌール酸とトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等を添加し混練したマスターペレツトを配合したものが、乙第3号証(特開昭51-54654号、昭和49年11月7日出願、同51年5月13日公開)の実施例2には重量比85/15のナイロン66/6共重合体に難燃剤としてメラミン、ペンタエリスリトール及びグリセリンの混合物を配合したものが、乙第4号証(特開昭51-54655号、出願日、公開日は乙第3号証のそれに同じ)の実施例3には重量比85/15のナイロン66/6共重合体に難燃剤としてメラミンとシアヌール酸の混合物等を配合したものがそれぞれ記載されていることが認められる。

(2)  以上の事実からすれば、ポリアミド樹脂であるナイロン66/6共重合体において、ナイロン66とナイロン6との組成割合をいかに定めるかは、これによつて製造する製品の用途や目的に応じて適宜選択することのできる周知の手段として広く行われていたものであり、しかも、ナイロン66/6共重合体に難燃性向上を目的としてこの共重合体にメラミン等の難燃剤を配合するに当つても右手段の適用はその例外ではなく、本願出願当時ナイロン66とナイロン6との組成割合を本願発明が規定する範囲内で選択したものが広く行われていたということができる。そして、本願発明におけるポリマー成分としてナイロン66及びナイロン6との組成割合の範囲の限定は、前記のとおりそれぞれ95~65重量%及び5~35重量%とするものであり、このような範囲の限定はそれ自体特異なものではなく、かつその限定範囲も相当広範な幅を有しているものであり、更に、引用例を検討しても、このような組成範囲を除外すべきものとする特段の事情も認められない。

そうしてみると、引用例に前記のとおりポリアミド樹脂の例示としてナイロン66/6共重合体についての記載がある以上、その組成割合について明文の記載がなくとも、本願出願当時の技術水準に照らして、当業者としては本願発明で限定した範囲内における組成割合のナイロン66/6共重合体を直ちに想起することができるものというべきであるから、引用例には本願発明の右組成範囲のものが実質的に開示されていると認めるのが相当である。

よつて、本願発明の構成は引用発明の構成と実質的に同一であり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

(3)  原告は本願発明でナイロン66及びナイロン6の組成割合の範囲を限定したのは、成形時の発泡を防止し成品の機械的性質の低下を防止するという課題の解決のためであるのに、引用例にはこのような課題について全く記載がないから、本願発明の右組成割合の範囲に関する構成が記載されているとはいえない旨主張する。

しかしながら、本願発明の構成が引用発明の構成と実質的に同一であることは右に述べたとおりであるから、引用例に原告主張の課題が記載されていなくても、引用発明においても右の課題が解決され、本願発明と同一の効果が奏されることは明らかである。従つて、原告の右主張は採用できない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は失当であり、審決には違法の点はない。

3  よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 牧野利秋 清野寛甫)

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